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東京地方裁判所八王子支部 昭和50年(ワ)1091号 判決 1976年10月27日

原告

塚本アキ

ほか二名

被告

寺内正洋

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告ら

1  被告は、原告塚本アキに対し金三四三万八、四六二円および内金二八三万八、四六二円に対する昭和四九年一二月一三日から、原告芝本玉栄、同大塚宮子に対しそれぞれ金一八九万二、三〇八円およびこれに対する昭和四九年一二月一三日からそれぞれ支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  1項について仮執行の宣言

二  被告

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  亡塚本栄造は左記交通事故によつて死亡した。

発生日 昭和四九年一二月一二日午前二時ごろ

場所 八王子市元横山町一丁目八番地三号先路上

原告 道路横断中

被告車 乗用車 多摩五五・た二四・六五

運転者 被告

態様 亡栄造が右側方高尾方向から大和田橋方向へ進行してきた被告車に衝突され頸椎骨折により約三〇分後に死亡

(責任原因)

1  被告に前方不注視の過失があつて自賠法第三条、民法第七〇九条の責任がある。

2  亡栄造には、妻塚本アキ、子として次男亡塚本貞次がおり、嫡出子、大田浩次、大田アヤ子(いずれも養子縁組によつて改姓)、長女芝本玉栄、次女大塚宮子の三子がいる。

よつて、法定相続分により原告アキは三分の一、同玉栄、同宮子はそれぞれ九分の二の割合によつて損害賠償請求権を相続した。

(損害額)

1  亡栄造は明治四〇年五月一日生で事故当時六七歳であつた。

2  亡栄造は、原告アキの住所地で塚本旅館、西八王子市千人町二丁目一四番地で飲食店「鳥茂」を経営し、一年間の純益は両者合わせて金三、一二七、一七五円を下ることはないし、子供はすべて成人し独立している。亡栄造の生活費は三割とみるのが相当である。

3  前記相続分により原告らは左記の損害額を相続した。

(明細は別紙計算書のとおり)

原告アキ 金三、四三八、四六二円

(弁護士費用六〇万円を含む)

原告玉栄 金一、八九二、三〇八円

原告宮子 金一、八九二、三〇八円

(請求)

よつて、原告アキは金三四三万八、四六二円と弁護士費用金六〇万円を控除した金二八三万八、四六二円に対する事故の翌日である昭和四九年一二月一三日から原告玉栄、同宮子はそれぞれ金一八九万二、三〇八円およびこれに対する前同様昭和四九年一二月一三日からそれぞれ支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を被告に対し求める。

二  請求原因に対する認否と主張

1  請求原因の交通事故に関する主張中、発生日、場所、被告車、運転車については認めるが、その余の点、とくに亡栄造が道路横断中に被告車に衝突されたとの点は否認

2  同責任原因、損害額に関する主張は、すべて争う。

3  本件交通事故は、亡栄造が飲酒のうえ国道二〇号線バイパスで横断禁止の車道上に横断禁止の標識を無視して立入り横臥するという重大な過失に起因して発生したもので、被告としては亡栄造のかかる行動を予見することはできなかつたし、本件事故を回避することもできなかつた。

4  かりに、被告に前方不注視の過失があるとしても、その程度は、亡栄造の過失に比較して軽微であり、亡栄造の過失は九〇パーセントを下らない。

三  原告らの反論

1  亡栄造は、路上に横臥していて本件事故に遭遇したものではない。

かりに、栄造が横臥していたとしても、被告が前方注視を怠らなければ、事前に十分発見することができたものであり、本件事故は、被告の前方不注視と速度違反に起因するものである。

2  亡栄造の過失は、被告の過失に比較して軽微で、その割合は栄造二に対して被告八が相当である。

なお、原告らの本訴における各請求額は、右過失割合を考慮してそれぞれ算出したものである。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  原告らの被相続人である塚本栄造が昭和四九年一二月一二日午前二時ごろ東京都八王子市市元横山町一丁目八番地三号先路上において被告運転の普通乗用車との交通事故によつて死亡したことは当事者間に争いがなく、右事実に成立に争いのない甲第五、第七、第一九ないし第二八号証、乙第四、第五号証によると、右交通事故は被告の前方不注視に起因することが認められる。

二  しかし、さらに右証拠によると、本件事故については被害者である亡栄造にも、とうてい看過することのできない重大な過失があつたことが明らかである。すなわち、本件事故現場の道路は、通称八王子バイパスといつて車両の専用走行を目的とした道路で、歩車道はガードレールなどによつて明確に区別されていて横断はすべて禁止されていたところ、栄造は酒に酔つて横断禁止の本件車道に立入り、しかも、車両の走行による身の危険もあえて顧みないで車道上に横臥していたこと本件事故に遭遇したものである。

もつとも、本件道路上には三〇ないし四〇メートルの間隔で水銀灯が設置されていて夜間でも見透しは良好で、被告が前方に対する十分な注意を尽くして走行していたなら路上に横臥している栄造を発見でき事故を未然に回避できたことは前掲証拠によつて明らかであるけれども、走行路上に人間が横臥しているということは通常予期し得ない事態であることなど考えると、本件事故発生に関する栄造の過失と事故に対する寄与の程度はきわめて大きく、その態様、程度など諸般の点を参酌するときは、本件事故に対する栄造の過失の割合は被告のそれに対し七〇パーセントを下らないものと解するのが相当である。

三  そこで、右過失割合を考慮して本件事故により生じた損害を算定すべきであるが、原告らの主張によれば、損害額の総合計額は金二、一七三万八、四四二円(別紙損害計算書参照)であるところ、仮にこれを正当としてこれに依拠して前記過失割合に基づいて過失相殺をすると原告らが請求し得べき金額は金六五二万一、五三二円(円以下切捨)となる。

しかし、原告らは、本件事故に関し右請求額を超過して自賠責保険金として総計金六九〇万三、〇六三円を受領していることが明らかである。

四  右のとおりとすると、原告らの損害は自賠責保険金によつて十分に補償されているものといえるから、その余について検討するまでもなく原告らの請求は失当である。なお、原告アキの弁護士費用の請求は是認することはできない。

よつて、原告らの本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 神田正夫)

損害計算書

1 損害計算

逸失利益 11,238,442

慰藉料 10,000,000

葬儀費 500,000

合計 21,738,442

2 受領自賠責保険金 6,903,063(1/3x+2/9x+2/9x=6,903,063 x=8,875,366)

原告アキの損害金充当額 2,958,455(8,875,366×1/3)

原告玉栄の損害金充当額 1,972,303(8,875,366×2/9)

原告宮子の損害金充当額 1,972,303(8,875,366×2/9)

3 過失相殺 20%

4 損害金相続額

原告アキの相続額 7,246,147(21,738,442×1/3)

原告玉栄の相続額 4,830,764(21,738,442×2/9)

原告宮子の相続額 4,830,764(21,738,442×2/9)

5 請求額

原告アキの請求額 3,438,462(7,246,147×(1-0.2)-2,958,455+600,000弁護士費用)

原告玉栄の請求額 1,892,308(4,830,764×(1-0.2)-1,972,303)

原告宮子の請求額 1,892,308(4,830,764×(1-0.2)-1,972,303)

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